佐久近辺の美術批評 第4号(2010年下半期号)



ワークショップのススメ

なかむらじん(美術家)


 軽井沢といえど猛暑の影響が否めなかった8月後半、今年も恒例になった脇田美術館・夏休みワークショップ〜軽井沢につどうキッズ・アーティストたち〜が開催された。2008年より始まり、毎年様々なジャンルのアーティストを迎え3回目。軽井沢の夏のアートシーンの1つとして定着してきた感がある。3日間連続で開催され、A:「デコボコをあそぼう はって!版画を刷ろう!」講師/版画家・田嶋健(手でちぎった紙を板にはり、できた凹凸(でこぼこ)を利用して版画をつくる)B:「ろう画で描いた車を走らせよう」講師/蝋画家・山中克子(ろうを使って描いた紙を組み立ててオリジナルの動く車をつくる)C:「ぼくのわたしの物語〜1枚の紙が絵本になる」講師/美術家・なかむらじん(さまざまな技法で大きな紙に絵をえがき、紙をおりたたんで、世界に一冊の本のできあがり)…の3つのプログラム。毎年参加のリピーターも多く、また3日間連続で参加するツワモノもいて25〜60名という参加枠であるが毎回早い時期に定員となるようだ。殺伐としたニュースが少なくない世の中、義務教育の現場では心を育むはずの芸術系単位時間が削減されている現状を思うと、美術を生業とするモノにとってもアートやモノツクリに嬉々と取り組む子どもたちが育っていく環境づくりのお手伝いができることは喜ばしいこと。ささやかではあるがこんな稼業の自分でも社会貢献をしているような気分にもなる。
 さて、このワークショップというプログラム。アーティストトークなどとともに昨今美術館などで企画展とセットでオーディエンスに提供されるフツーのサービスとしてすっかり定着している。「来るなら来い、観るなら観ろ」といったタカビーな態度はすでに許されるはずもなく、作家は生み出したブツの説明責任を果たし、ファンサービスに努める義務を追うようになった。自分のアトリエに引きこもってフェチなモノツクリしていれば、それは作家の至福ではあるが、そうもいかない。言葉で通じない繊細な事物を詩として記し、絵にして現した時代は遠く、作家も伝える言語を持ち、今流行のコミュニケーション能力が問われる時代。一生の生業としてつくり続けたかったら否応にも社会とツナガレ!とりあえず…か。
 いやいやそうは言っても時に社会的規範から逸脱し、時に需要生産性の必然から遠く離れながら成熟する表現こそが芸術であり、徒に迎合することなかれと反論する諸兄もありだろう。でも考えてもみよう、別にアーティストでなくともシナヤカな発想力と大胆な行動力を持って社会を変革してきた先人は星の数。「書を捨てよう街に出よう」に習い「筆を折ってスーツを着よう」など言うつもりはないが、たちのわるいただのヒキコモクンにならないためにも世の中と接続可能なプラグインツールの一つも身につけるべし。そういう意味ではワークショップ等、こうしたオーディエンス参加型のプログラムなどを作家自ら企画したりプロデュースしてみたりする行為は、幸か不幸か自分が生まれ持ってしまったアートなチカラを社会につなげる試みの模索の一つとしては、もちろん多少の得手不得手はあるにしても、それなりに有効と考える。そしてそれはけして社会という圧力に屈服することと同義ではないし。むしろま逆である可能性が高い。よほどの能力に恵まれていなければ、どんなにフェテッシュにモノツクリに励んだとしてもなかなか常識的な自己規制の枠組みを逃れることは難しく、見えない圧力あるいは権力に気づかず取り込まれている日常をアーティストと言えど生きてるにすぎないからだ。ならば打って出ようではないか。「虎穴に入らずんば、虎子を得ず」…べつに虎の赤子には興味はないが、己の能力に限界があるのなら誰かに助けてもらう他あるまい。他力本願大いに結構。もちろん“サービス”ということになれば一定の到達点は求められる可能性はあるが、「うまくいかなかった…」というプロセスそのもがアートを体感できる瞬間にもなるやもしれず。カルチャースクールじゃないんだからサ。「いっしょにツクル」というストレスにはポジティブに打ち勝ち、コラボレーションという甘美な横文字に眼をくらませて「責任の共有」というスリリングな扉をこじ開けてみれば、ソコはアトリエという殻を破った未体験ゾーン…てなことを期待しつつ、まあだいたいそんなことで僕はワークショップをよろこんでやったりしているのである。
 佐久地域では2007年に軽井沢町のギャラリーにてアーティストとアート好きな一般参加者が創り手として互いに刺激し合える講座として「美場(VIVA)軽井沢」を立ち上げている。この講座はその後「美場うえだ」「美場おぶせ(オブセコンテンポラリー企画)」と地域を移しながら引き継いで、現在小布施町立図書館「まちとしょテラソ」にて「美場テラソ」としてさらに内容も充実して進行形である。是非また佐久地域でも機会をみつけて再開したいものである。









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