佐久近辺の美術批評 第6号(2011年下半期号)



D39始動。

工藤美幸(美やデザインにまつわる力を信じる佐久市民)


 昨年、いや一昨年か、この原稿を依頼されたのち、自分の立ち位置があまりにも変貌して美術と無縁なところに来てしまったので、正直断ったほうがいいのではないかとも思ったが、今更(改めて依頼されて依頼されたことを思い出したのがつい最近)なので書くことにした。しかし、「批評」できるようなスキルはないのでご容赦いただきたい。
 言い訳が続くが、そんなわけでこの下半期、ほとんど美術に触れていない。しかし幸い(?)佐久の今後につながるひとつのムーブメントが起きたので、趣旨とずれて誠に申し訳ないが、そのことについて書きたいと思う。

 2011年秋、佐久地域のデザインとアートに関わる若い人々が集い、ひとつのグループが結成された。「D39(でーさく)」である。以下、D39公式サイトから抜粋引用すると
D39(association of design in Saku)は、「デザイン」を介して地域住民の交流はもとより、佐久から発信することで東信地域の活性化の役に立ちたいという思いから、佐久地域のデザイナー、アーティストを中心に発足したグループである。
デザインとはモノの付加価値を高め市場で有利に展開することだけではなく、人間の活動の基礎であり、ものごとの本質を見極め、生きることの真の豊かさを追求し、計画する上で必要なものである、という認識のもと、「信州・佐久をデザインで豊かにする」をミッションに掲げ、つくり手と使い手の理解とつながりを深めるための機会をつくる活動を行う。
 というものである。 (公式サイト)http://d39.jp/index.html
 グループ結成とともに11月25日(金)から27日(日)には「さくデ。」http://d39.jp/index.html イベントが行われ、多くの来場者を集めた。来場者からの「まさかこんなに面白くて、かつハイクオリティな人たちが佐久にいるとは思わなかった」という声のとおり、予想以上の(失礼)ポテンシャルを見せ、かなり刺激的な展示空間を構成していた。
 このグループの何がポイントかと言えば、「こんな作品作ったから見てね」だけの同好会ではない、というところである。D39の活動内容として彼らは
◆ 佐久地域をグランドとする、デザインイベントの企画・実行
◆ 学生・生徒・児童のデザイン活動の支援
◆ 個々のデザイナーの活動、交流の場の提供
◆ デザイナーとユーザー・企業のマッチング支援
◆ 佐久地域の優れたデザイン、デザイナーの発掘・紹介
を掲げている。「まちを豊かにする」ことをミッションとして、市民とコミュニケーションし、「佐久発」のモノやアクションを提案する。佐久地域には優れた素材や人材があるけれど、ブランドとしての発信力が全国的ではない。これらの活動が少しずつでも成され、その結果として知財と心が豊かになるまち・佐久になってくれたらいいなと願うばかりである。
 また、このことが彼ら自身の経済活動にも直結することを期待している。ダイレクトに言うと美しくないかもしれないが、これは大事なことだ。デザインは、その重要性の割に軽視されやすい。特にパソコンが普及し、簡単な印刷も自分でできるようになり、ちょっとしたデザインツールソフトも販売される(もしくはフリーでダウンロードできる)昨今、専門領域としてのデザインは、かなりの部分で侵食されている。それはいいことでもあるのだが、素人ができていることと、プロが生み出すものとの間に厳然と存在する境界に靄をかけてしまった。プロの仕事を見せ、どこがどのように違うのかを明らかにし、その必要性と重要性を示さなければならない。
 優れたデザインは、必ずしも自己主張しない。だからこそ、こういう機会にその優位性を示す必要があるのだ。
 このグループのもう一つのポイントは、行政やその手の団体が絡んでいないことだ。そういう組織が絡んでいけないことはないのだが、上位下達で集められた的な成り立ちをする団体はたいてい上手くいかない。自分たちの危機感と、自分たちの必要性・目的によって設立されているからこそ、モチベーションが保たれるというものだ。支援は必要かもしれないが、「やらされる・やってもらう」のでは何もできない。自分たちのまちを創るのは自分自身なのだ。もっと佐久を豊かにしたい。自分たちの持っているデザイン力を活かして、美しいまちにしたい。であれば、具体的なアクションを、情熱をもって行い、いかに多くの人を巻き込めるかがこれからの課題になってくるだろう。緩やかにつながり、明確なピラミッドや組織図がない団体がゆえの苦悩はあると思うが、だからこそ柔軟に、どんな枠組みをはめられてもはみ出すくらいのアクションを見せて欲しいものである。
 デザインとアートの違いについてはエラい人たちが未だに議論しているくらいなので私ごときが定義できることでもないのだが、このイベントを通じ「自らの表現や問いかけるための窓としてのアート」ではなく、「誰かに何か〜明確な意図・意思〜を伝えるためのデザイン・生活を豊かにするためのデザイン〜普段使わない感性を刺激する・それがあることにより“面白い・気分がいい・心地よい”と感じさせる〜」ということだったのかなと思った。であれば、作品を通じて佐久や佐久の未来を考えることができたこのイベントは、大成功だったといえよう。
 この10年で、佐久地域は大きく変容した。その中で今、これから10年〜30年先の佐久に向けて今なにをすべきか、この変わりつつある佐久をどうコントロールすべきか、そんなことを考える動きが生まれているのかと感じる。このD39がその活動を通じ、一翼を担う団体になることを楽しみにしたい。









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