第12号(2014年下半期)



シュルレアリスムとリビングデッド

ハナサトミツキ(画家)


拝啓

 おそらく私は死んだのです。二〇一一年の六月の夜。あの高速バスの中で。
東京から佐久に戻り三年が過ぎました。高校を卒業し、もう戻ることなかれと誓って離れたこの地に今は根を生やしています。どの面を下げて佐久の美術批評ができようかとも思いましたが、思うところあり書かせていただいた次第であります。 先ず、私は蘇りました。それは佐久で魅力に溢れる作家さん達に出会ったからです。
 下半期でも個展を開催されていた木版画家のT嶋氏。佐久に戻り、阿呆のように徘徊していた時、T嶋氏の展示のポスターに目を奪われました。抜群のセンスとゆるさというかシュールさが絶妙なバランスで混在している作品に大変感銘を受けたのを覚えております。きっと貴方も好きだと思いますよ。
 個人的見解ではありますが、佐久の作家さん達の作品には多々、シュールな片鱗がうかがえる気がします。
 超現実主義のシュルレアリスムというよりはブラックジョーク的なシュールに近いのかもしれませんが。
 以前お話しした、Tかはし氏とS藤氏の展示も素晴らしかったです。搬入を少しお手伝いする機会があったのですが、まるで大人の文化祭といった感じで、すごく自由で笑い声に溢れ、美術の力を感じました。Tかはし氏の映像作品もあったのですがこれがまた一興。
 謝罪し続ける裸の男性の映像がループしている会場は本当にシュールそのものでありました。緊張と緩和。
 何故か創作意欲を刺激されるから不思議です。
 デーヴイデーを同封いたしますので是非ご覧ください。
 八月にはS病院でI島氏と私の二人展もありました。
 I島氏の作品も是非貴方に見ていただきたい。自分の分からないものを求めたというI島氏の言葉にはとても共感いたします。また、病院というパブリックな場所での年の離れた二人の展示ということで、普段あまり接点のない方達にも作品を見ていただけたのではと自負しております。絵や芸術には年齢の差は関係ないというのが理想ではありますが、やはり周りを見渡すと年齢やジャンルで温度差があるのが現実であります。
 そんな垣根を越え、何処ぞの馬の骨ともわからぬ私を気に掛けてくださったI島氏には本当に感謝しております。
 そういえば先日、友人の美容室でもとても興味深い展示がありました。東京のドローイングアーティストを招いての展示だったのですが、この作家さんはヘアスタイルに特科してドローイングする方で、壁面には色彩豊かな多種多様のヘアスタイルの作品が展示してありました。また空間も作品の一部と考えられていて、作品+空間=デザインという関係性がとても魅力的でありました。今後の美術の在り方を考えさせられる展示となりました。
 そんな刺激に日々生かされている私であります。兎に角、うかうか死んでもいられません。
 あるいは、此方に戻った事はよかったのかもしれません。ふるさとは遠くにありておもふものといいますが、今の私には東京は遠くにありておもふものといった感じです。そして、私はなによりこの地が持つシュルレアリスムな風情がとても好きです。
 やはりそれが私の作品の原風景なのでしょう。

 貴方のことですから日々忙しくお過ごしでしょうが、是非此方にもお越し下さい。
 春か夏にでも。
 またお会いできる日を心待ちにしております。

  敬具


参考展示

cat and fish nostalgic 飯島基×ハナサトミツキ
2014/8/9-8/22佐久総合病院ふれあいギャラリー

田嶋健 木版画展
2014/8/11-8/24酢重ギャラリー
2014/9/25-10/6油や ギャラリー一進

「―――――◯」展 たかはしびわ×齊藤智史
2014/10/11-10/19山門ギャラリー

hair palette yuki mikami exhibition
2014/11/12-12/8 RANGELAND









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