見立てて美術探訪



「自分は停車場のブリッジを、・・・外国の遊技場みたいに、複雑に楽しく、ハイカラにするためにのみ、設備せられたものだとばかりおもっていました」
太宰治『人間失格』

「人間の精神がどのようにして誕生したかという謎に対して、・・・「生存競争」の結果だなどと、馬鹿馬鹿しい!・・・世界のあくせく働く人間たちよ、仕事などほうり出したまえ。古い書物は間違っている。世界は日曜日に作られたのだ」
ウラジーミル・ナボコフ『記憶よ、語れ』



美術作品ではないものを、美術作品に見立てて批評してみる、『さくだいら美術探訪』のパロディ的コーナー、てことで。
※なお、超芸術とかトマソンとかとはちょっと違う、ということをわざわざ断っておきます。ヘンなものであるゆえに注目する、というのではなく、変であろうがなかろうが、ちっとも面白さを感じない本当に何の変哲もないものだろうが、目に付くもの全てを美術作品として(強引に)批評してみよう、ということです。何の変哲もないものから「引き出すように見る」試みです。

○方法:適当なものを見つけ、適当な題名をつけて、200字以内で批評する。



『危機管理対策』
多少つぶれた球体のような形をしている、黄土色の物体。表面にはいくつもへこみがあり、そのすり鉢上のへこみの中心には、まるでアリ地獄のように、涙のような形をした白い突起が出ています。この突起が、この物体の危機管理対策なのでしょうか。完全武装、と言うにはあまりにも隙だらけなところに、どことなく開けっぴろげで素朴なユーモアが漂っています。作品の不恰好な形態も、ユーモラスな感じを強調しています。


『時コレクション』
ダンボールが組み合わされて、ちょうど古代の柱を模したかのような、過去から未来までの長い年月が詰まっているようにも思える形に組み上げられています。
ここにコレクションされているのは、使用されている安価な材料が示すように、素朴な、取るに足らないガラクタのようなものなのでしょうが、この作品は、そうした見過ごされがちなものにも価値があると静かに主張しているかのようです。


『呪い』
オレンジがかった色をした鋭くとがった円錐形から、叫び声をあげているかのような縮れた毛が無数に生え出ています。円錐形の表面にはところどころ皺のような黒い傷がついています。私たちの際限のない欲望のように、何かを求めて永遠にどこまでもねじれ伸びていかなければならない呪いをかけられているのでしょうか。もしかすると私たちにも同じような呪いがかけられているのかもしれない、と考えさせられる作品です。



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